コワくないオカルト小説、二本立てで連載中!! 気になるお笑い芸人のオハナシも、地味に暴走しているよ!!
 俺はフロントガラス越しに、変わり映えのない景色を見つめた。消火器みたいな霧の中、道なき道を……車はまだ、標識が見えるだけマシだ。だけど今、俺の心を支配している道なき道には、標識すら見当たらない。いや正確には、全く役割を果たしていない標識があるだけだ。

 オマエのことだよ、水野!! さっきから懐メロばっか歌ってんじゃねぇ!!

「……あーそれ、ウチの親父もよく歌ってた」

 思わず口にすると、水野サンは満面の笑みを浮かべた。

「え、親父さんもジュリー好きなの?」
「……ええ、まぁ」

 ジュリーって……アンタいつの時代の人だよ? 見た目通り25、6歳なら、ジュリーではなく沢田研二と言う。つーか、そもそもこんな普通に、平井堅の『POP STAR』みたいなノリで、歌わない。

「ジュリーは、グラムだよね!!」

 ……そんなこと言われても、知らねぇよ!!

 こういう状態を、火がついた、とでも言うのだろうか。水野サンはどんどん饒舌になり、それと共に車もどんどん加速して行く。

「グラムと言えばボク、デヴィッド・ボウイも好きなんだ!! 『ジギー・スターダスト』なんてレコードが擦り切れそうなほど聴いたよ!!」
「……はぁ」
「え、知らないの? デヴィッド・ボウイ」
「いや、それも親父が好きで。もしかして、クイーンとか、好きです?」
「うん大好き!! フレディの声は、まさに奇蹟だよね!! なんだトーマ、趣味合うねぇ!!」

 ……じゃなくて、ウチの親父と趣味合ってんだよ。

「いやあの、俺はわりと、パンクとか聴く方なんで」
「あ、ピストルズとかダムドとか? クラッシュとかラモーンズなんてのもいたね!!」
「……いや、それは基本で押さえてますけど、まぁ有名ドコロだと……ランシドとか」
「ランシド? 何それ、シド・ヴィシャスと関係あんの?」
「いや、そういう名前のバンドなんですけど」
「え〜知らないよ、ホントに売れてんの〜?」
「誰でも知ってますよ! あ、でも、グリーン・デイのが有名か」
「え、グリーン・デイ? そんな名前のバンドもいるの? 直訳すると『緑の日』!?」
「……まぁ、そうですけど」

 何て言うんだこういうの……ジェネレーションギャップ? どうやら、いや明らかに、俺と水野サンでは世代が違う。ウチの親父が昔好きだった音楽の話が、水野サンにとってはリアルタイム、つまり今現在の話として存在しているのだ。
 それがどういうことかと言うと……俺の頭は少々混乱してきた。
 消火器みたいな霧の中、道なき道を、標識だけを頼りに進んで行くうちに、俺もだんだん、慣れてきた。カオスのごときこの景色と、水野サンのキャラに。

「ねぇ水野サン。ここまで来て、未だに信じられないんですけど」
「何が〜? 道がないこと〜?」
「じゃなくて、マジでこんな仕事が、あるってことですよ!」

 そうは言っても、正直、どんな仕事なのか、よく分かってねぇんだけど。だって適性テストと個人面接を受けただけで、「じゃあキミの配属先はココね」だもんな。そんでたいした説明もなく、「コイツはかなりのベテランだから心配いらないよ」と水野サンを紹介され……正直かなり、心配なんですけど。

「えーと。トーマくん?」
「あ、『トーマ』でいいです」
「じゃあ、トーマ。分からないことがあったら、何でも、このボクに聞いてくれていいんだよ〜」
「……はぁ……」

 いつしか俺の心もカオスに包まれ、道なき道を走っていた……つーか、マジで、こんな人に教わって大丈夫なのか俺!? 
 とりあえず、標識代わりに、どうでもいいことを聞くことにした。

「じゃあ、水野サン。どうして制服が、ツナギなんですかね」

 水野サンは、ちょっと考えた。

「……動きやすいから?」

 やっぱりダメだ、この人は。例えば「キミのイメージではこうだろうけど、実際は……」みたいな、俺が期待するような答えは、返ってこない。いやむしろ、予想通りだ。
 仕事はなかなか、シビアなものだ。


 俺は今、『中有運送』という会社で働いている。いや、正確には、働こうとしている。
 とりあえず、これから実地研修だ。

「ホント、何も分からないんで、よろしくお願いします」
「まぁ、そんな気構えず、仲良くやろうよ」

 指導員の水野サンは、かなりのベテランだと聞いた。でも、どう見ても25、6歳にしか見えない。

「あ。キミは今日からボクの助手だから、助手席に座ってね〜」

 しょうもない冗談は、俺の緊張をほぐすための気遣いなのか。なかなか気さくな人、というのが、水野サンの第一印象。
 とりあえず笑って、運搬車に乗った。俺は勿論、助手席だ。

 運搬車の乗り心地は、思ったより悪くなかった。だけど外の景色が、俺的には、どうも……。

「……すいません、なんかちょっと、酔ったみたいなんですけど」
 しごとは、なかなかシビアなものだ。



 時は、やけにゆったりと、流れていた。

「最初で最後の親孝行だと思えばいいさ。なぁ?」

 その瞬間、樹は、いつかの父の冗談を思い出していた。

「なぁイツキ、もしバイクで死ぬんだったら、ガードレールじゃなくて、車に突っ込めよ。4トンとかな。そしたら、運転手から慰謝料ガッポリふんだくって、母さんと旅行するからよ」

 ……シャレになんねえ……親父の予言通りかよ?

 ぶつかる寸前に、トラックの運転手と目が合った。ヤベエ、そう呟いたのが、口の動きで分かる。

 重い衝撃とともに、樹の体はバイクごと、宙に浮いた。

 ……まさか俺、このまま死ぬのかな。