コワくないオカルト小説、二本立てで連載中!! 気になるお笑い芸人のオハナシも、地味に暴走しているよ!!
空き地には、タスク以外、誰もいなかった。
桜も、たった一本だけだった。
まるで、世界から取り残されたように見えた。
怖くなった。
もしこのまま放っておいたら、あの桜はきっと、おじさんを食べてしまったんじゃないか。
そう思った。
そんなことは、ありえない。でも、巨大な傘を広げたかのように咲く桜が、タスクの大きな体をスッポリ包み込んで、今にも飲み込んでしまいそうに見えたのだ。
一人でアメ玉を運ぼうとして、押し潰されたアリ。
タスクの、どこか思いつめたような目が、それを連想させた。
独り占めしようとしてる訳じゃない。手伝ってくれる仲間が、いないのだ。
早く助けなきゃ。そう言ったら、陸と緋芽に理由を長々と説明する羽目になる。
だから海は、こう言った。
「……おじさんを、驚かしてやろう」
桜も、たった一本だけだった。
まるで、世界から取り残されたように見えた。
怖くなった。
もしこのまま放っておいたら、あの桜はきっと、おじさんを食べてしまったんじゃないか。
そう思った。
そんなことは、ありえない。でも、巨大な傘を広げたかのように咲く桜が、タスクの大きな体をスッポリ包み込んで、今にも飲み込んでしまいそうに見えたのだ。
一人でアメ玉を運ぼうとして、押し潰されたアリ。
タスクの、どこか思いつめたような目が、それを連想させた。
独り占めしようとしてる訳じゃない。手伝ってくれる仲間が、いないのだ。
早く助けなきゃ。そう言ったら、陸と緋芽に理由を長々と説明する羽目になる。
だから海は、こう言った。
「……おじさんを、驚かしてやろう」
「いたぁ、カイ〜!!」
やっと二人が現れた頃、海は噴水近くのベンチで、ウトウトしかけていた。顔を上げると、緋芽が慌てて陸の背中から降りるのが見えた。
「……もう、オマエ足速すぎだって……」
陸は息を切らしながら、海の隣にヘナヘナと座り込んだ。
一方、緋芽は何事もなかったかのような顔をして、噴水に手を伸ばしたり、渦巻状の石畳を爪先立ちでたどったり。疲れた様子は全くない。
「……なぁ、なんでオレが、ヒメちゃんの面倒見なきゃなんないの?」
どうやら陸は、あの小道のほとんどを、緋芽をおぶって来たようだ。もう走れないだの足が痛いだのブチブチうるさいから、仕方なく。
「……なんかさ、お姫様の馬になった気分だったよ……」
もう動きたくない……そう訴えるかのように、ぐったり背中を丸めたが。
「ねぇ〜、まだ先があるみたいだよ!!」
一体何を見つけたのか、声を弾ませながら走り出す緋芽を、陸は慌てて追いかけた。
「ヒメちゃん!! ダメだよ一人で行っちゃ!!」
何だかんだ言いながら、陸は誰かの面倒を見るのが好きなのだ。お兄ちゃん気分を味わいたいのかもしれない。
「なにボーっとしてんの、お兄ちゃん!?」
「置いてっちゃうよ〜!!」
広場に来た道とは反対側の、白い石柱のそばで、緋芽と陸が手招きしてる。
今度はオレが追いかける番か……海はアクビをしながら、ゆっくり立ち上がった。
やっと二人が現れた頃、海は噴水近くのベンチで、ウトウトしかけていた。顔を上げると、緋芽が慌てて陸の背中から降りるのが見えた。
「……もう、オマエ足速すぎだって……」
陸は息を切らしながら、海の隣にヘナヘナと座り込んだ。
一方、緋芽は何事もなかったかのような顔をして、噴水に手を伸ばしたり、渦巻状の石畳を爪先立ちでたどったり。疲れた様子は全くない。
「……なぁ、なんでオレが、ヒメちゃんの面倒見なきゃなんないの?」
どうやら陸は、あの小道のほとんどを、緋芽をおぶって来たようだ。もう走れないだの足が痛いだのブチブチうるさいから、仕方なく。
「……なんかさ、お姫様の馬になった気分だったよ……」
もう動きたくない……そう訴えるかのように、ぐったり背中を丸めたが。
「ねぇ〜、まだ先があるみたいだよ!!」
一体何を見つけたのか、声を弾ませながら走り出す緋芽を、陸は慌てて追いかけた。
「ヒメちゃん!! ダメだよ一人で行っちゃ!!」
何だかんだ言いながら、陸は誰かの面倒を見るのが好きなのだ。お兄ちゃん気分を味わいたいのかもしれない。
「なにボーっとしてんの、お兄ちゃん!?」
「置いてっちゃうよ〜!!」
広場に来た道とは反対側の、白い石柱のそばで、緋芽と陸が手招きしてる。
今度はオレが追いかける番か……海はアクビをしながら、ゆっくり立ち上がった。
あとどれぐらい続くんだろう?
この先ジョギングコース〜約2km〜
あの丸太を削っただけの看板を思い出しながら、海はやや下り坂になった小道を、足元を気にしながらトコトコと、早足で進んで行く。
「……2kmって、結構長いな」
ふっと、周りが明るくなった。見上げると、葉っぱのモザイクで隠れていた空が、高く高く広がっていた。
海は口をポカンと開けたまま、視線を空からゆっくり落とす。
「……あ、噴水だ!」
何だか嬉しくなって、思わず駆け寄った。
そこは、噴水を渦巻くようにレンガ混じりの石畳が敷かれた、ヨーロッパの古い町を思わせるような、円形の広場だった。
噴水は、大理石でできていた。太い水の柱を中心に、何本も、細い水が弧を描いて噴き出ている。近づくと、細かい飛沫が顔を濡らした。
……大人になったら、噴水を作る人になりたいな。
海は噴水の縁石に上がって、届きそうで届かない、水の柱に手を伸ばした。
この先ジョギングコース〜約2km〜
あの丸太を削っただけの看板を思い出しながら、海はやや下り坂になった小道を、足元を気にしながらトコトコと、早足で進んで行く。
「……2kmって、結構長いな」
ふっと、周りが明るくなった。見上げると、葉っぱのモザイクで隠れていた空が、高く高く広がっていた。
海は口をポカンと開けたまま、視線を空からゆっくり落とす。
「……あ、噴水だ!」
何だか嬉しくなって、思わず駆け寄った。
そこは、噴水を渦巻くようにレンガ混じりの石畳が敷かれた、ヨーロッパの古い町を思わせるような、円形の広場だった。
噴水は、大理石でできていた。太い水の柱を中心に、何本も、細い水が弧を描いて噴き出ている。近づくと、細かい飛沫が顔を濡らした。
……大人になったら、噴水を作る人になりたいな。
海は噴水の縁石に上がって、届きそうで届かない、水の柱に手を伸ばした。
公園は、思ったよりも広かった。
いつの間にかあの不快な騒音もニオイも遠くなり、ひたすら真っ直ぐ走るうち、海は知らない小道に入っていた。
後ろに、陸と緋芽の気配がないことには、とっくに気づいていた。それでも海は、二人を待つことも引き返すこともなく、走り続ける。
途中で、丸太を削っただけの看板を見た。
この先ジョギングコース〜約2km〜
背の高い常緑樹に囲まれたその道は、人一人が通れる幅だけ、ツルツルした地面がむき出しになっていた。所々に小さな花が咲いているだけで、桜の木は、もうどこにも見あたらない。
「……なんだか、向こうとは別世界だな」
水飲み場を見つけたので、少し休むことにした。天気予報によると、今日は5月初旬の陽気だそうだ。さすがに喉も渇いてきた。
「……それにしても、遅いな、アイツら」
丸太を地面に転がしただけのベンチに腰掛けて、今来た道に、二人の姿を待った。
サワサワと、風が葉や草を揺らすだけで、あとは何も、足音どころか、鳥の声や羽音すら聞こえない。
なんだかここは、あの公園に似てるな。梢に覗く空を見上げながら、海はぼんやりと、幼い頃のことを思い出していた。
いつの間にかあの不快な騒音もニオイも遠くなり、ひたすら真っ直ぐ走るうち、海は知らない小道に入っていた。
後ろに、陸と緋芽の気配がないことには、とっくに気づいていた。それでも海は、二人を待つことも引き返すこともなく、走り続ける。
途中で、丸太を削っただけの看板を見た。
この先ジョギングコース〜約2km〜
背の高い常緑樹に囲まれたその道は、人一人が通れる幅だけ、ツルツルした地面がむき出しになっていた。所々に小さな花が咲いているだけで、桜の木は、もうどこにも見あたらない。
「……なんだか、向こうとは別世界だな」
水飲み場を見つけたので、少し休むことにした。天気予報によると、今日は5月初旬の陽気だそうだ。さすがに喉も渇いてきた。
「……それにしても、遅いな、アイツら」
丸太を地面に転がしただけのベンチに腰掛けて、今来た道に、二人の姿を待った。
サワサワと、風が葉や草を揺らすだけで、あとは何も、足音どころか、鳥の声や羽音すら聞こえない。
なんだかここは、あの公園に似てるな。梢に覗く空を見上げながら、海はぼんやりと、幼い頃のことを思い出していた。
「なぁ、カイ。『花見客』って言うけどさ、誰にとって『客』なんだろ?」
いきなり立ち止まるなよ、海は口で言わずに、膝で軽く陸の尻を蹴った。ただでさえ人が多くてイラついているのに、大柄な陸に道を塞がれたらたまったもんじゃない。
「あ、ゴメン。で、どう思う?」
「……『花見客』なんだから、やっぱ、桜の客じゃねぇの?」
よく晴れた日曜日、桜が満開の公園。ここらの地面はそのほとんどを、ビニールシートや人と靴、弁当や飲み物と、それらのゴミで覆われていた。この隙間を、三人並んで歩くのは難しい。
「ああもう、歩きにくいったらないよ!!」
陸はグイッと海の腕を掴み、ついて来いとばかりに、半歩先を歩き出した。海の後ろには妹の緋芽が、はぐれないようにパーカーの裾をしっかり掴んで、まるで金魚のフンのようにくっついている。
「桜が咲いたぐらいで、どうしてこんなに集まってくるんだろうな?」
海はもう、ウンザリしていた。そりゃあオレらだって花見に来たけど……ごちそうを食べる以外、やることはない。食うだけ食ったら暇を持て余して、親達の宴会を抜け出したのだ。
「なぁ、リク。なんか、あれに似てねぇ? アメとか落とすと、アリがタカってくるじゃん」
花見に来た人々が、海にはまるで、アリのように見えた。どこからかウジャウジャ湧いてきて、同じエサにタカるアリ。
「オレらは今、巨大なアリの群れの中を、歩いてるんだよ!」
そう言うと、後ろからグイッと服のスソを引っぱられ、海は首を締めつけられた。
「お兄ちゃん、気持ち悪いこと言わないでよ!!」
放せバカ、海は振り返って、妹が泣かない程度に頭を叩いた。
「そうだリク、今日、コウくんは?」
「今年もやっぱり、『人の多いトコは苦手だ』って」
「……だよな」
去年までは「コウくんに花見は似合わない」なんて笑っていたが、今年は違う。
「オレも、人の多いトコは、嫌いだよ」
こんな所に来たって、イラつくだけだ。
桜の下に群がった、赤い顔した大人達。そして、人の数だけ転がった靴とゴミと。気が狂ったように笑いながらバカデカイ声でわめき散らしヘタクソな歌を歌い、酒やタバコのニオイとか女の人の化粧とか屋台の焼きソバのニオイなんかがゴチャ混ぜになって……奴らが発する騒音や空気汚染は、海のイラ立ちを爆発させた。
ここに爆弾を落として、こんなバカな奴らを全部、吹き飛ばしてやりたい。
ビニールシートの角をおさえるように置かれた靴。海は舌打ちして、それを睨む。そうだ、こんな物をいちいち避けて歩く必要はない。どうして何の関係もない奴に、こんな頭のイカレた奴らに気を遣わなきゃいけないんだよ?
いきなり立ち止まるなよ、海は口で言わずに、膝で軽く陸の尻を蹴った。ただでさえ人が多くてイラついているのに、大柄な陸に道を塞がれたらたまったもんじゃない。
「あ、ゴメン。で、どう思う?」
「……『花見客』なんだから、やっぱ、桜の客じゃねぇの?」
よく晴れた日曜日、桜が満開の公園。ここらの地面はそのほとんどを、ビニールシートや人と靴、弁当や飲み物と、それらのゴミで覆われていた。この隙間を、三人並んで歩くのは難しい。
「ああもう、歩きにくいったらないよ!!」
陸はグイッと海の腕を掴み、ついて来いとばかりに、半歩先を歩き出した。海の後ろには妹の緋芽が、はぐれないようにパーカーの裾をしっかり掴んで、まるで金魚のフンのようにくっついている。
「桜が咲いたぐらいで、どうしてこんなに集まってくるんだろうな?」
海はもう、ウンザリしていた。そりゃあオレらだって花見に来たけど……ごちそうを食べる以外、やることはない。食うだけ食ったら暇を持て余して、親達の宴会を抜け出したのだ。
「なぁ、リク。なんか、あれに似てねぇ? アメとか落とすと、アリがタカってくるじゃん」
花見に来た人々が、海にはまるで、アリのように見えた。どこからかウジャウジャ湧いてきて、同じエサにタカるアリ。
「オレらは今、巨大なアリの群れの中を、歩いてるんだよ!」
そう言うと、後ろからグイッと服のスソを引っぱられ、海は首を締めつけられた。
「お兄ちゃん、気持ち悪いこと言わないでよ!!」
放せバカ、海は振り返って、妹が泣かない程度に頭を叩いた。
「そうだリク、今日、コウくんは?」
「今年もやっぱり、『人の多いトコは苦手だ』って」
「……だよな」
去年までは「コウくんに花見は似合わない」なんて笑っていたが、今年は違う。
「オレも、人の多いトコは、嫌いだよ」
こんな所に来たって、イラつくだけだ。
桜の下に群がった、赤い顔した大人達。そして、人の数だけ転がった靴とゴミと。気が狂ったように笑いながらバカデカイ声でわめき散らしヘタクソな歌を歌い、酒やタバコのニオイとか女の人の化粧とか屋台の焼きソバのニオイなんかがゴチャ混ぜになって……奴らが発する騒音や空気汚染は、海のイラ立ちを爆発させた。
ここに爆弾を落として、こんなバカな奴らを全部、吹き飛ばしてやりたい。
ビニールシートの角をおさえるように置かれた靴。海は舌打ちして、それを睨む。そうだ、こんな物をいちいち避けて歩く必要はない。どうして何の関係もない奴に、こんな頭のイカレた奴らに気を遣わなきゃいけないんだよ?







